「日経ビジネス」2007 年 4 月 16 日号

  • 最近はネットトレードで巨額の資金を蓄え、単独で市場に影響を与えられるような資産規模になった「巨大な個人」まで出てきた。
  • 代表格は 2005 年末、東証マザーズに上場した人材サービスのジェイコムの株を巡り、みずほ証券の誤発注に絡んで約 20 億円を儲けた小川拓也(仮名、ハンドルネーム BNF)だろう。
    2000 年秋にわずか 160 万円を持って本格的にネットトレードを始めたという小川は、ジェイコム事件の 2005 年に運用資産を一気に 100 億円に増やし、今はさらに 165 億円に積み上げているという。
  • 規模が大きくなった分、昨年からは東証 1 部の大型株を中心に売買するようになったが、口にするのは「上昇力のある強い銘柄が少なくなった」こと。
    だから、市場全体の強弱に目を向ける。
    例えば、米ニューヨークダウとナスダック市場の株価が上昇し、日経平均先物も上がれば、その日、日本の株式市場も強くなると予想する。
  • 「米国を中心にした外国人の資金が日本株に入りやすくなる」(小川)から、主力銘柄の中でも特に強いと思うものに買いの手を入れる。
    そこで鉄鋼株を検討する場合は、米国の US スチール株の動きも見る。
    そして上昇していれば、日本の鉄鋼株を買う確信を強める、といった方法で入るのだという。
  • 「全体の流れに乗る」売買法だが、ネットトレーダーの中からは「あそこまで大きくなると存在そのものが、株価を動かすことにもなるのでは」という声も漏れる。
  • 昨年 4 月 12 日にヘラクレスに上場した精密部品メーカー、クラスターテクノロジー。
    上場直後に株価が下落したところで小川は買いを入れ、翌日に再び上昇したところで売りを出したのだが、実はこの買いが大きすぎた。
    発行済み株式数の 5 % を超える株式を保有した格好になり、財務局に届け出が必要になってしまったのだ。
  • 小川には意図はなかったが、ちょうど小川の売りと同時に株価が下げたため、個人投資家の一部から「大量の売買が株価に影響を与えたのでは」といぶかるような視線を送られる結果となってしまった。
  • 東証 1 部の大型株ではこんなこともなさそうに見えるが、そうとも言い切れない。
    例えば小川も最近、しばしば売買する三菱重工業。
    3 月 1 日~ 4 月 5 日の 25 日間の平均出来高を元に小川の「力」を測るとそれがよくわかる。
  • 小川が、その総資産 165 億円をかけて、仮に 4 月 5 日の終値で買うとすると、平均出来高(6874 万株)の 31.7 % にも相当する。
    実際に小川がそんなことをするわけではないし、本当に買い進めれば株価が上がるから、31 % は無理な相談だが、それだけの力を持っているのは間違いない。
  • 小川ほどの規模ではないが、最近は 1 人で 10 億~ 20 億円もの運用資産を持つまでに大きくなった個人投資家も珍しくはなくなった。
    個人が市場と企業に及ぼす影響の大きさは、もはや無視できないものになりつつある。