アメリカは本当にすごいですね

北尾 ところであなたの名前は、投資家のヴィクター・ニーダーホッファーから取ったそうだね?彼のどういうところを気に入ったの?
B・N・F ヴィクター・ニーダーホッファーはヘッジファンドを運用していて、高いパフォーマンスを続けていたんですが、破産するくらいまで大損しちゃったんです (笑)。オプションだったんですけど、他の人が皆売ってた時にその人だけはプット・オプションを空売ってたんです。上がる方に賭けてたんですね。他の人が 売っている時にその人だけ強気なポジション取って、結果的に追証になって強制決算させられて、それで大損しちゃったんです。でも、読み通りにその後すごく 上がっていったんです。あの時、市場が30分早く閉まってしまい、それがなければ大成功だったかもしれません。普通、あれだけ成功してたらオプションであ れだけ強気の、破産スレスレのポジションを取るなんてできないじゃないですか?それができるだけで、儲けるポテンシャルが高いってことなんだと思うんです よ。普通の人ができないことをやってるので。
北尾 市場が30分早く閉まる。彼の場合は「運」が無かったんだろうね。僕はこの相場の勝ち負けっていうのは確実に「運」があると思いますね。
B・N・F いろんな「運」がありますね。始める時期とか。
北尾 本当にその「運」に恵まれている人と恵まれてない人と、その差が正直に出てくるね。相場は。
B・N・F 自分の場合だと時期的なものがすごく大きかったですね。ちょうど自分が学生のときにネット証券とか手数料自由化が始まったんで。だから10年早く生まれて いたら駄目だったろうし、10年遅く生まれても全然こういう風に儲かっていなかったと思います。
北尾 始めたのは大学3年のときからだっけ?
B・N・F そうなんですよ。ちょうど暇で(笑)。
北尾 そのころから株式には興味持ってたの?
B・N・F そんなに興味無かったんですよ。やっぱりネット証券とか手数料自由化が始まったのが大きいですね。それまではほとんど興味なかったですね。
北尾 まぁこれからだよね。その170億円を1700億円、2000億円にするのか、もしくはまた1000倍にしちゃうかとかね(笑)。
B・N・F それはもう長期でやるしかないでしょうね。個人レベルだと情報の面で限界があるので、なかなか難しいですね。
北尾 情報面での限界ね。でも最終的には自分の持っている情報と自分自身を信じ込むしかないんだよね。バフェットも信じ込んだ。60年代にマンハッタンファンド を作ったジェリー・サイは、当時まだ新興企業だったゼロックスやIBMに次々と投資した。それがどれもものすごく上がって大成功になった。彼はこうした当 時の新興企業の将来を信じた。
B・N・F 普通はそこまでリスクは取れないですからね。
北尾 ジェリー・サイの場合はその後また生保を買うんだよね。相場で儲けて事業を買う。その事業を育て上げてまた儲ける。
B・N・F バークシャーなんて完全にそうですよね。普通の繊維会社だったのを買って。日本で言えば、ソフトバンクもそういう風に成長してきましたね。
北尾 結局ソフトバンクが今日まで事業を伸ばせたのは、ヤフーに投資した100億円のお陰ですよ。これが何倍にもなったわけだから。
B・N・F ヤフーは大成功でしたね。ソフトバンクにとって本当に大きかったと思います。でももうアメリカのヤフーは結構売ってしまいましたね。
北尾 アメリカのヤフーは売ったね。売った当時は持っていた方がよかったんじゃないかという議論もあったけど、最近はそういう議論が消えたね。
B・N・F まあアメリカのヤフーは上がっていないですからね。先日の決算発表でも6四半期連続減収減益って感じですので。
北尾 もう完全にグーグルが抜いたからね。ヤフーの人海戦術に対してグーグルの考え方は最初からロボットだった。人海戦術にはすぐ限界が来るけど、ロボットはどんどん進化するんですね。
B・N・F しかし、グーグルは本当にすごいなあと思いますよ。NHKスペシャルを見たときに特集をやっていたんですけど。まあ、アメリカを見ていると本当にスケール が違いますね。最近米国株は自社株買い、ダウに入っている30銘柄の中で自社株買いを発表することが結構多いです。それも何兆円とかレベルで。
北尾 IBMなんか凄いことやっていたね。自社株買いをするために転換社債を出す。そして行使価格を今の株価よりもだいぶ上にした。そしてそれで資金調達をし て、それに見合った同じだけの株を市場から買う。だけど行使価格が上だから必ず上に行く、という訳です。面白い方法を考える人がいるんだよね。僕もずっと 研究していますが、僕の研究テーマの一つは資金調達と株価、M&Aと株価なんです。
B・N・F アメリカは本当にすごいですね、金融に関しては圧倒的だと思います。製造業が駄目でも、貿易赤字がすごくても結局金融で取り返すんで。日本の場合は株式市 場が低迷しているからみんな難しいんですよね。資金の流れが今悪いんで。ライブドアショックが結構効いていますよ、日本は。
北尾 今考えると、僕が登場したこともライブドアショックを起こすようなことにつながったかもしれないね。
B・N・F まあ、色々あって結果的にライブドアショックが起こって・・・、新興市場は一気に低迷してしまいましたね。
北尾 そう、ある意味で自分の首を自分で締めたようなことが若干あるんですよね(笑)。ライブドアはファンドを使って決算操作をしていたので、ファンドについての監査が厳しくなった。そうすると他の新興企業も次々と問題起こしていく。
B・N・F 新興は下方修正する企業がすごく増えたんですよね、あの後。それで新興市場の信頼性が失われたことが、低迷した一番の理由なんですよね。信用がなくなっ ちゃって、それで株をやめる人がどんどん増えていって・・・。日本株が世界的に出遅れている原因として、個人投資家が元気ないっていうのが一番大きいと思 うんです。他の国はあれだけ株が上がっていれば、多分個人投資家もすごい盛り上がっていると思うんですけど。日本はあまり盛り上がっていない。
北尾 日本の場合は機関投資家も原因だね。90年代初頭に始まって2000年に入ってからも続いたあのバブル崩壊の後遺症がずっとあって、毎日毎日株価下がって いくあの経験を忘れられない機関投資家のポートフォリオマネージャーがものすごく慎重になっている。ジョン・ケネス・ガルブレイスが『バブルの物語』で 言っているように、これはもう世代交代しないといけないかもしれないね。
B・N・F 自分はちょうど落ちたところくらいではじめているんですよね。80年代の日本はバブルを作っちゃったと思いますが、今の中国がそんな感じになってますね。
北尾 あの時の日本は企業業績が伸びていないのに、株価や土地の価格だけ上がり続けた。中国はそうではなくて業績もどんどん伸びているから、まだまだ伸びる銘柄が沢山ある。
B・N・F 日本も89年に日経平均は天井をつきましたけど、でもその後、本田とかトヨタとか京セラとか業績のいいとこは上がっていきました。今の新興市場でも中にはDeNAのように、業績が良くて上がっているところもあるんで。
北尾 もちろん業績は大事な要素だけれど、結局マーケット全体が下がるときに業績はほとんど影響なかったね。機関投資家は売れるものから売っていく。外国人もあ の時はもう日本のマーケットからどんどん売れる株から売ってゲットアウトしていたでしょ。だから出来高の高いもの、そして業績が比較的よいものもどんどん 売り出していった。結局全部下がっていったね。やっぱりそれが相場の一つの流れだと思うんですね。
B・N・F それでも長い目で見ればトヨタとか本田とか……
北尾 そう、それこそがまさに「買い場」なんですよ!!
B・N・F そうですよね。そういう銘柄こそが長期的に見れば「買い」なんだと思いますね。