「日経金融新聞」2007 年 8 月 9 日付
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東京都港区の高層マンション——。
ここに連日で巨額の資金を動かすコジンがいる。
みずほ証券のジェイコム株誤発注で二十億円を稼いだ K さん (29) だ。
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眼前には五台のモニターを配し、百―二百銘柄の株価の動きをにらむ。
チャートで買いと判断するなり、素早い手つきで数千万―数億円単位の注文を次々と執行。
一日の売買代金は三百億円に達することもある。
東証一部の売買代金の「一 % を握る男」だ。
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金額が膨大なため空売りはしない。
それにもかかわらず、七月下旬以降の急落局面で大きな損失は発生しなかった。
不安定な海外株をみて、持ち高を極力減らしていたからだ。
巨額の資産ながら、機動的かつ大規模に株と現金の配分を入れ替える。
機関投資家には決してまねのできない芸当といえる。
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売買の判断に特段ルールのようなものは設けていない。
その時々によって、様々な要因を総合して判断する。
いまは米国株、アジア株、円相場、商品市況などをにらみながら反発のタイミングを見定めているという。
ただし、取引は一日―一週間程度の短期に特化している。
本人いわく、「数カ月先の相場なんて、想像もつきませんから」。
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運用資産は百七十五億円。
株取引を始めた七年前に百六十万円だった元手は一万倍以上に膨れあがった。
それでも極端なぜいたくはしない。
株取引に楽しさを感じるわけでもない。
ただ、もうけ損ねたくないという衝動だけが彼を動かす。